スクイズ
「金魚って食ったらうまいのかなぁ」
「知らないよ。食べたことないし」
「興味ねぇ?」
「ない」
「なんか、胃の中で踊り出しそうなぐらいプルプルとした喉ごしってイメージねぇ?」
「丸飲みなの?」
「そういう食い方が作法のような」
「そう言われればそういう気がしないでもない……」
「な? やってみたくなっただろ?」
「や、それはない」
「よし、おっちゃん! 1回ね!」
「兄ちゃんよ。そんな物騒なこと言ってる客に金魚はすくわせられねぇよ」
「えっ、そんな!」
「恥ずかしい奴……バカ?」
「ぐっ」
「だいたい、こんな縁日の金魚すくいの金魚なんか飲んだら、間違いなくお腹下すわよ。下手すると死ぬし」
「ね、姉ちゃんもなかなか言うねぇ……」
「そうだぞ。失礼な奴だ」
「兄ちゃん、そもそもアンタが原因なんだよ」
「まあまあ、おっちゃん。どうせ他の客もいないんだし、いいじゃないか」
「冷やかしにもほどがあるわ! 帰れ!」
「ほーら怒られた。だからこんな場末の店なんて見に来なけりゃよかったのよ」
「アンタら、ケンカ売りに来たのか」
「いやいや。すくわせてください! 300円!」
「む……金を出されると弱い」
「商人たる者そうでないと」
「ただし、飲むなよ」
「わかりましたって!」
「じゃあ、はい。これがポイだよ」
「ボキャ天ですか……?」
「微妙にわからないネタを言うんじゃない。ポイというのは、この金魚すくいの網の正式名称だ」
「それはかなりのトリビアですね」
「ちなみに食パンが入ってる袋とかを留めるプラスチックの部品は、クロージャーというんだよ」
「聞いてないっす」
「あ、おっちゃーん。あたしも1回!」
「はいはい、300円だよ」
「高い」
「そこで値切る!?」
「消費税はいらないの?」
「え? いや、それは……」
「バカだな。300円の中に消費税も含まれてるんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、税抜価格はいくら? おっちゃん」
「え? ああ、えーと……」
「あ、でも屋台は消費税を払わなくていいから、関係なかったわ」
「ほー、そうなのか」
「なんか、反復継続してる事業じゃないと課税対象にはならないんだって」
「さっきからトリビア連発だな。よし、この金魚すくい屋の名前は『トリビアすくい』に変えよう」
「勝手に変えるな!」
「とかなんとか言ってるうちに、なんと金魚全部すくいました」
「あー、あたしの分がないじゃない。ビリでとる気だったのに」
「電気ショックか。恐ろしい奴だな」
「でもまあ、これもらえるんだよね?」
「いやいや、どうせケチくさく1匹だけしかくれないんだぜ」
「やっぱり? ケチくさいわね」
「でも金魚なんか飼う気ないから、持って帰らないけどな」
「飲む話は?」
「するわけないだろ」
「それもそっか」
「おっちゃん。よかったね。1匹得できて」
「あ、あっちはわたがしあるよ。あの詐欺の体積を久しぶりに味わいたいな」
「行くか。じゃ、おっちゃん。頑張ってね」
「二度と来んじゃねぇ!!」